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1.交付税削減と自治体基金 「埋蔵金」の指摘解せぬ

201712月9日 中国新聞・社説)

 幼児教育の無償化などを盛り込んだ「人づくり革命」の中身がきのう閣議決定された。衆院選の公約履行に突き進む一方、懸案の財政再建はどうするのか。2018年度の政府予算編成で焦点になりそうなのが、都道府県や市町村が予算を組む上で指針となる地方財政計画である。

 

 例年にも増して自治体の財政担当者が注視している。国と地方の長期債務が合計1千兆円を超していることなどを理由に、財務省が地方交付税の削減をにおわせているからだ。

 

 財政基盤の弱い自治体を国が責任を持って支えるのが交付税の主たる目的で、全国に配られる額は年15兆円。大半の自治体は前年実績を基に予算を組んでおり、もし減額されれば住民生活を含め各方面に影響が出ないとも限らない。政府が掲げる地方創生にも差し支えよう。

 

 自治体のみならず総務省が強く反発しており、削減論がすんなり進む保証はない。そもそも、安倍晋三首相や麻生太郎財務相の諮問機関がそれぞれ削減を提起するに当たり、どこまで地方の立場に立って議論したのか疑わしい点があるからだ。

 

 自治体の「貯金」に当たる各種基金は全国で過去最高の21兆5千億円に膨らんでおり、交付税を減らしてもやっていける―というのが、諮問機関や政府の考えのようだ。確かに基金はこの10年で約8兆円増えているが、その目的や積み増しの背景に目を向けねばならない。

 

 災害やインフラ老朽化対策、社会保障費の増大など、将来の備えとして自治体は各種基金を積み増してきた。当然の危機管理策といえる。「新たな埋蔵金」「使い切れない財源だ」などと、政府の諮問会議が一方的に決め付けたのは解せない。

 

 むしろ職員定数の見直しや公共事業の精査など、自治体の内部努力による歳出削減を評価するべきだ。

 

 地方交付税を巡っては00年代の小泉政権下でも三位一体改革の名の下、削減された経緯があり、自治体は今回も強い警戒感を示している。全国知事会議で「国の多大な誤解」(湯崎英彦広島県知事)「基金は備えだ」(村岡嗣政山口県知事)など、官僚出身の知事からも批判が飛び出したのは当然といえる。

 

 基金増を理由に交付税を減らせば自治体のやる気をそぐだけでなく、いっそ基金を使ってしまおうと不要不急の事業に走り財政規律を損なう恐れもある。負の結果を招いてはいけまい。

 

 今回の議論を通じて、改めて安倍政権の中央集権志向が透けて見える。かつての自民党政権が曲がりなりにも地方分権や道州制導入を掲げ、税財源の地方移譲を訴えてきたのとは真逆の方向に向かっていないか。

 

 交付金削減の一方で、財務省は地方消費税の配分方法の見直しを提起する。東京や大阪などの都市部に偏りがちな税収を地方に手厚く配ろうというのだ。自治体間格差の是正に異論はないが、素直には喜べない。税収が地方財政計画を上回った場合は交付税を減らそうという議論が政府内にはあるからだ。

 

 自治体の基金をうらやみ「埋蔵金」探しに血眼になる政府の姿はどうか。地道な行財政改革と無駄の削減に取り組むべきだ。地方の側も国への依存体質から抜け出すには、分権を本気で追い求めねばならない。